東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1621号 判決 1962年11月26日
判 決
原告
有限会社清水パツキング製作所
右代表者代表取締役
清水達雄
原告
知久守孝
右両名訴訟代理人弁護士
堀江達雄
被告
丸市運輸倉庫株式会社
右代表者代表取締役
亀山憲三
右訴訟代理人弁護士
野町康正
右当事者間の損害賠償請求事件についてつぎのとおり判決する。
主文
1、被告は、原告有限会社に対して金一八五、七一五円原告知久守孝に対して金一〇、八八〇円ならびにそれぞれ右金員に対する昭和三七年三月一六日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。
2、原告知久守孝のその余の請求を棄却する。
3、訴訟費用は全部被告の負担とする。
4、この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実
原告ら訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因としてつぎのとおり述べた。
一、訴外太田久夫は、昭和三六年一一月一日午後二時半頃東京都品川区北品川二丁目一三一番地先京浜国道において被告所有の営業用普通貨物自動車(以下加害車という)を運転して品川駅から南品川の方向にむかつて進行中赤信号で停車中の先行車たる原告有限会社使用中のスバル三六〇型自動車(以下被害車という)に追突した。そのため右原告有限会社の右被害車はその前方に接着するようにして停車していた大型三輪トラツクに激突した。
二、右事故によつて原告有限会社の被害自動車は、その前部および後部に大破の損傷をうけ、これを運転していた原告知久守孝は、右胸鎖孔様筋損傷および左下腿打撲傷をうけた。
三、右事故の発生は、被告加害車の運転手たる訴外太田久夫が先後連続進行の場合における前方注視、除行または停車の一般的注意義務を怠つたことによるものであつて、同訴外人においてよくその注意をつくしたならば、これをさけることができた筈のものである。そして訴外太田久夫は、被告のために被告加害車を運転していたものであるから、被告は右事故によつて原告有限会社がこうむつた損害について民法第七一五条第一項の規定によつて、原告知久守孝がこうむつた損害について自動車損害賠償保障法第三条の規定によつてその賠償をすべき義務がある。
四、この事故によつて原告らに生じた損害はつぎのとおりである。
(一) 原告有限会社のうけた損害
(1) 一〇五、七一五円原告有限会社所有自動車の破損修理費の支出
(2) 八〇、〇〇〇円右修理自動車の引渡まで四〇日間の代用軽自動車借入費(一日につき二、〇〇〇円)の支出
(二) 原告知久守孝のうけた損害
(1) 八八〇円前記傷害の診療費の支出
(2) 二〇、〇〇〇円前記傷害によつて勤務を四日間休むことを余儀なくされる等して精神的苦痛をうける等財産以外の損害に対する慰謝料
五、よつて被告は、原告らに対して右各損害を賠償すべき義務があるものというべく、原告らは被告に対し右各損害金および本件訴状送達の翌日である昭和三七年三月一六日以降右各損害金の支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだしだいである。
被告訴訟代理人は、「1、原告らの請求を棄却する。2、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、つぎのとおり述べた。
一、請求原因第一項、第二項前段(自動車損傷)および第三項の事実は認めるが、第二項後段(原告知久守孝傷害)および第四項の事実は知らない。
二、被告は破損した原告会社被害車の修理について訴外三陽自動車修理工場に照会したところ、「同会社では一週間で修理する」との回答をえたので、原告有限会社にその旨を通知したにもかかわらず、原告有限会社は、これを肯き入れず、伊藤忠自動車株式会社馬込営業所に依頼して修理せしめ、一五日間の長期間を要し、しかも取り替えた破損部品を被告に見せず、その修理費は権威ある筋の鑑定によれば金六七、八〇〇円位である。原告有限会社主張の修繕費は高額にすぎるというべきである。その修繕に要した日数の主張も不当である。したがつて、原告有限会社主張の損害額は相当に縮減されるべきである。
立証関係≪省略≫
理由
一、請求原因第一項(追突の事故発生)および第二項前段(自動車損傷)の事実は当事者間に争がなく、同第二項後段の事実(原告知久守孝の傷害)は、成立に争のない甲第四号証の記載によつて認めることができ、請求原因第三項の事実(訴外太田久夫の過失および被告の責任事由)は当事者間に争がない。
二、よつて原告らのうけた損害について判断する。
(一) 原告会社の損害について
(1) (証拠―省略)を綜合して判断すれば、原告会社は本件事故の直後に被害自動車の修理を訴外伊藤忠自動車株式会社に依頼し、昭和三七年一月二二日その修理代一〇五、七一五円を同訴外会社に支払つたことを認めることができる。そして証人高橋理吉の証言および同証言によつて成立を認める乙第一号証によれば、本件被害自動車の修理のためには取替部分品一九、〇四〇円、修理工賃四八、八〇〇円の合計六七、八四〇円を要する見込なる旨の鑑定がなされていることを認めることができ、右乙第一号証に前記甲第一号証を対比して考えれば、高橋理吉の右鑑定ではリメーシヤフト、ブレーキドラム、フアン、ジヤツキの取替は事故と関係なくその必要を生じたものであり、フロントスカート、フロントバルブヘツトアングロスナンバーは取替の要がなかつたものであり、その他工賃についても不当なものであることとなつているにもかかわらず、前記修繕にあたつては、その取替および修理が施されたことを認めることができる。しかし証人高橋理吉の証言によれば右鑑定は、乙第一号証の日附にもかかわらず、実際には修理完了後になされたものであり、しかも訴外高橋理吉としては取替部品についてはその残骸があれば取替を認める積りであつたが、修理完了後調査に行つた際残骸が保管してなかつたのでそのような鑑定になつたものであることを推測せしめるばかりでなく、同証言によれば、高橋理吉は伊藤忠自動車株式会社が行つた修理のための分解に立ち会つてその見解を明かにしたものでなく、修理の前には単に精算見積りでよいから送るよう申し向けていたが、原告会社の方からまず乙第二号証の見積書を送付させ、ついで修理終了後甲一号証の見積書が届けられるに及んで初めて乙第一号証の鑑定書を発行したことが認められる。元来、訴外高橋理吉の如き立場からする鑑定は修理着手前によく調査し、分解に立会う程の慎重さをもつてしなければ、単なる爾後のいいがりに堕し易いのである。しかるに本件においてそのような慎重さをかくのみならず、取り替えた部品の残骸さえあればその取り替えを是認する積りであつたという高橋理吉の証言からすれば、同人の前記鑑定書の記載は、前記認定の伊藤忠自動車株式会社のした修理のうちに余計なものがあつたことの証拠となるものとするをえない。また前記認定の修理工賃に不当なものがある旨の前記鑑定書の記載も証拠としての具体性に乏しく、当裁判所の心証をひかない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(2) つぎに原告会社代表者の本人尋問の結果とこれによつて成立を認める乙第二、第六号証によれば、原告会社は本件被害自動車を所有権留保附月賦販売契約によつて訴外伊藤忠自動車株式会社から買い受け、引渡をうけて自己の運送営業に使用していたのであるが、本件事故によつてその使用が不可能となり、昭和三六年一一月一〇日頃から四〇日間訴外渡辺商会(港区芝三田小山町一番地)から代車を一日二、〇〇〇円の賃料をもつて借りうけ、その賃料合計八〇、〇〇〇円を昭和三七年一月中に右訴外商会に支払つたことを認めることができる。被告は修理期間が長すぎる旨主張し、賃料額を争うけれども、原告代表者の供述によれば、元来本件被害車の修理着手は予定より遅れたのであるが、その原因はもつぱら被告会社の従業員小林光雄から「本件加害自動車には対物保険がかけられていて、自動車損傷の賠償は、その保険金をもつてするから、査定に行くまで修理を待つてくれ」と申入れたのに、査定にくるのが遅れたためであること、修理終了後、原告会社は被告からの賠償金をもつて修理代の支払をするため被告に修理代金額を通知して賠償金の支払をまつたが、被告において応じなかつたので、修理工場からの被害自動車の引取がおくれ、いきおい代用車の借用期間が心ならずも伸長するに至つたことを認めることができ、格別反対の証拠はない。さすれば、前記代用車借料の支払は、本件自動車損傷による損害の範囲に属するものといわなければならない。
(二) 原告知久守孝の損害について
(1) 原告知久守孝の本人尋問の結果と成立に争のない甲第三号証によれば、原告知久守孝は、昭和三六年一一月二日前記傷害によつて内藤小児科医院こと内藤昭三(渋谷区向山町七二番地)に対し診療費三八〇円を、またその頃湿布治療のため少くとも五〇〇円を支出したことを認めることができるから、治療費支出として少くとも金八八〇円の損害をうけたものといわなければならない。
(3) なお、原告知久守孝は、慰謝料の支払を求めるところ、同原告の本人尋問の結果によれば、同原告は受傷後自宅で湿布治療をしたのであるが、首が痛くて起きることができないので、四、五日自宅で休養した後原告会社に出勤したが、出勤後も一週間位湿布を続け、首の痛さがとれるのには二、三週間を要したことを認めることができる。
これらの事情に前記同原告の自動車運転手たる職業を合せ考えれば、この場合の慰藉料は原告主張の金二〇、〇〇〇円は多きに過ぎ、一〇、〇〇〇円をもつて相当と考える。
三、以上のしだいであるから、被告は原告会社に対し民法第七一五条第一項によつて前段(一)の損害金合計一八五、七一五円を支払うべき義務があるというべく、原告知久守孝に対し自動車損害賠償保障法第三条の規定によつて前段(二)の損害金合計一〇、八八〇円を各支払うべき義務があるというべきである。したがつて右各損害金とこれに対する本件訴状送達の翌日であることの記録上明かな昭和三七年三月一六日以降右支払ずみに至るまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度において原告らの各請求を正当として認容し、原告知久の請求中これを超える部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴第八九条第九二条但書の規定を、仮執行の宣言について同第一九六条一項の規定を適用して主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事二七部
裁判官 小 川 善 吉